「北へ」行こう・道北の秋(1)

ドライブライン

目梨泊遺跡から見る北見神威岬 気温が高かった今夏の影響で、鮭の群れが例年より遅れてやってきたオホーツク海沿岸も、10月にやっと平年並みになった鮭漁で賑わう。クッチャロ湖やサロベツなど、湿原や原野に咲き誇った花々もすでになく、枯野に無数の赤トンボが舞い、天は青く高く白い雲が浮かぶ。観光客の姿もまばらになった宗谷とノシャップ岬の彼方に大きくサハリンの陸を見ながら、今回は夏には見落としがちな道北の深まりゆく北国の秋の魅力を見つけた旅であった。
主にオホーツクから日本海へと海岸線を辿るロングドライブだったが、長く寒い冬の前に、穏やかな海に踊る銀鱗の鮭をはじめ、めばる、ほっけ、そい、ホッキ貝やみる貝など秋が旬の魚介類が水揚げされていた。内陸ではじゃがいも、かぼちゃ、玉葱などがいっぱい店先やレストランのメニューに並んでいた。


サムネイル1 サムネイル2 サムネイル3 サムネイル4 サムネイル5 サムネイル6

ドライブライン

<コース>
新千歳空港−(道央自動車道)−旭川−和寒IC−(国道40号線)−剣淵町−士別−名寄−音威子府−(道道12号線)−枝幸町−(国道238号線)−クッチャロ湖・浜頓別
全行程 約1,000km

ルート付近のリンクポイントをクリックしてみてください




●新千歳空港からのスタート

旅行日程を組む時、一番気になるのは天候だ。一般的には天候に合わせての計画はなかなか難しいが、取材旅行となると天気図とにらめっこ。神社仏閣や街並みを訪ねるのは、多少の雨もまた風情があるが、海や山という自然が主な対象となると、やはり好天を待つことになる。
「明日から道北は晴れ」という予報に、羽田に駆けつけたが、全日空稚内行きはすでに飛び立ったあと。一番早いというのが、札幌便だった。待合い室でレンタカー千歳空港営業所にネットで予約という慌ただしい旅立ちだった。
新千歳空港とレンタカー営業所は大型バスでピストン輸送
新千歳空港とレンタカー営業所は
大型バスでピストン輸送


●剣淵「絵本の館」

目的は道北へのドライブ。オホーツク海沿岸では「いま鮭漁がはじまった」というニュースに一路、最も鮭の水揚げ量が多いという枝幸に向かって走る。途中、見どころへも寄ろうという欲張り旅行でもある。
旭川で一泊、翌日、再び道央自動車道を、比布を通り過ぎて和寒ICで降り、国道40号線に出る。間もなく「絵本の里・けんぶち」の道の駅に出会う。これより剣淵町の中心部に入ったところに「絵本の館」がある。

剣淵町は「絵本の里」としてアピール
剣淵町は「絵本の里」としてアピール
絵本の館
絵本の館

明治32年(1899)に屯田兵が入植し、開拓された農業の町に世界中の絵本を集めた「絵本の館」が平成3年(1991)に旧役場庁舎を改修して開館。その後、現在の新館が建てられた。世界の絵本や原画など蔵書約4万5000冊、前年度出版された絵本を公募し、夏に来館者投票を行い、受賞作品には剣淵の農産物3年分が贈られるという。


●士別・世界のめん羊館

めん羊館は小高い丘にある
めん羊館は小高い丘にある
めん羊館への標示
めん羊館への標示

正確には「サフォークランド士別・羊と雲の丘」という。雄大な自然の丘の上に世界各国から集められた30種、60頭の羊が飼育されている。一口に羊といっても、毛玉に目鼻があるような可愛い種や、イギリスの牧場でたくさん見かける顔や手足の黒いもの、また羊とは思えないほどの大型のものから恐そうな顔や大きな角をもったものなど、日本ではここでしか見られない種類の羊も多い。
主にセーターやマフラーなどに使われる柔らかい毛のものから、カーペットやタペストリーなどの素材などになる硬い毛の羊、さらに食用となる羊と、種類によっての用途の説明もある。 一方では観光牧場として広い緑の丘陵に、イギリスやオーストラリア産の羊が沢山放牧されている。館内には羊毛を使った帽子、マフラーなどの手工芸品の体験コーナーやレストランもある。

30種のめん羊がこの中で飼育されている
30種のめん羊がこの中で飼育されている

士別・世界のめん羊館
士別・世界のめん羊館

オーフォークホーン。日本にはここにしかいないそうです
オーフォークホーン。日本には
ここにしかいないそうです


秋の牧草地
秋の牧草地
名寄・道の駅
名寄・道の駅

●枝幸(えさし)町

北緯45度、オホーツクの北に位置する漁業の町だ。毛蟹の水揚げ量は日本一を誇り、鮭の季節には、防波堤や浜辺まで鮭の群れがやって来る(今年は水温が高かったせいか、このあたりではあまり見ることのないブリまでが捕れていた)。
昔は海がホタテ貝で埋まったというが、現在もホタテ漁は盛んで、町にはホタテ干貝柱工場もある。

ホタテの殻を外す。ベテランはすごい速さだ
ホタテの殻を外す。ベテランはすごい速さだ
冬の味覚、ブリも上がっていた
冬の味覚、ブリも上がっていた

近くの海には岩礁が連なる「ウスタイベ千畳岩」や海水浴場、今年(平成22年2月)日本の名勝地として国の指定を受けた「北見神威岬」の他、約1200年前のオホーツク文化を語る目梨泊(めなしとまり)遺跡の住居跡や墓から出土した土器などが展示された博物館もある。
出土品は平成12年(2000)国の重要文化財の指定をうけ、日本の最北の文化財となった。展示されている全ての土器が重要文化財なのには驚く。これらの発掘現場は浜辺に近い高台にあるが、保護のため現在埋め戻されている。

目梨泊遺跡から見る北見神威岬
目梨泊遺跡から見る北見神威岬

エゾジカの飛び出しが多く、道路標識以外の大きな注意板も出ている
エゾジカの飛び出しが多く、道路標識
以外の大きな注意板も出ている


●枝幸港と鮭

気温が高い日が続いた今夏、水温も高いとあって例年より10日以上も遅れて来た鮭。港内にも鮭の群れが押し寄せ、この時期の鮭目当てに日本中の釣り人もやってきていた。
砂浜には長い竿が無数に立てられ、釣り人は、波の彼方に目を注ぐ。岸壁もまた人と竿の放列だ。海面には銀鱗踊り、海水の中には巨体をくねらせて泳ぐ鮭の群れが見えるのに、釣り上げる人は少ない。「日により、その日の運により何匹も釣り上げる人もいるが、そんなに釣れるものではねぇよ」と、もと漁師だったという観光案内所の人の話。港での水揚げを見たいというと「鮭漁の船が戻るのは、早朝6時ころだ」という。

港の側では早暁から鮭釣りが盛ん
港の側では早暁から鮭釣りが盛ん
釣り上げた鮭、この人は嬉しそうに1時間もかけて鱗やエラを外していた
釣り上げた鮭、この人は嬉しそうに
1時間もかけて鱗やエラを外していた


翌朝6時前に港へ行く。4隻の船が港へ戻ったばかりだった。船底からクレーンで大きな網に一杯の鮭を吊り上げ、仕分け台へ。まだ生きて跳ねる鮭を手際よく種分けしていく。大きさはもとより、大きなプラスチックの箱にはなんと雄雌ではなく「男」「女」と書かれていた。そこへ釣り人が鮭を買いにきた。「釣れなかったんですか」と聞くと「友達に頼まれたので買いに来た。遠くから来たので、手ぶらで帰るわけにはいかない」と笑っていた。
枝幸の鮭漁は朝日とともに水揚げが始まる
枝幸の鮭漁は朝日とともに水揚げが始まる

鮭は素早く仕分けされていく
鮭は素早く仕分けされていく
網で遡上を止め、2隻で網を寄せる古典的漁も
網で遡上を止め、2隻で網を寄せる
古典的漁も


ここでは雄・雌ではなく男・女と仕分け箱に書いてあった
ここでは雄・雌ではなく
男・女と仕分け箱に書いてあった

全部雌鮭
全部雌鮭

トラックの荷台は満杯
トラックの荷台は満杯
霧が押し寄せると船も漁師もシルエットに変わる
霧が押し寄せると船も漁師も
シルエットに変わる


●オホーツクミュージアムえさし

昭和62年(1987)、海岸の段丘上で、道路建設工事により、オホーツク人の大きな4軒の竪穴式住居跡や、46基の墓などから土器や鉄や青銅製の刀などの副葬品が多く出土した。その数、数万点に及ぶ。オホーツク文化の遺跡としては最大級である。
「目梨泊遺跡」とはアイヌ語で「東風を防ぐ舟のかかり潤」を意味するメナシュトマリを音訳したもので、昔からこのあたりは船着き場として利用されていたという。
発掘された出土品などは、国の重要文化財にも指定され、内、ミュージアムには指定文化財319点が展示されている。中でも埋葬時に使われたという土器の数は多い。さらに1200年前の人々が身を飾ったガラス玉や琥珀玉の首飾りなど当時の大陸との交易を示したものまである。また竪穴式住居を実物大で復元、居住内には当時の衣服や食糧、クマ祭祀の様子などが、再現展示されている。

オホーツクミュージアムえさし
オホーツクミュージアムえさし
ヒグマをはじめ山、海の動物、鳥類なども展示されている
ヒグマをはじめ山、海の動物、
鳥類なども展示されている


オホーツク人の住居復元。発掘された土器、石錘など全てが国の重要文化財
オホーツク人の住居復元。発掘された
土器、石錘など全てが国の重要文化財

出土品の数々
出土品の数々

他には、キタキツネやタヌキ、クロテンからエゾシカ、ヒグマなどとの関わり合いや、当時から家畜化した「オホーツク犬」と呼ばれていた大型の犬や、食用のためのカラフトブタを飼育していた様子も、分かりやすく解説している。


●三笠山展望閣

枝幸町の裏山、標高170mの三笠山の山頂にはコンクリート製の四角い「展望閣」と名付けられた建物が建つ。四方がガラス張りになった窓から360度の大パノラマが楽しめる。足下には枝幸町の家並み、その向こうにはオホーツクの大海原が広がる。
入館は無料だが、椅子やテーブルがあり、喫茶店のうまい味のコーヒーなども販売されているし、小物のみやげ品も並ぶ。冬にはスキー場になるが、展望閣は冬期閉鎖となる。枝幸を訪れたらぜひ、この展望台からの絶景を楽しみたい。

枝幸町の背後、三笠山の展望閣
枝幸町の背後、三笠山の展望閣
三笠山から枝幸の町、オホーツク海
三笠山から枝幸の町、オホーツク海


●ウスタイベ千畳岩と北見神威岬

枝幸の町外れには、岩礁の連なる海岸がある。夏には子供達が水遊びや海の生き物と戯れる遊び場だが、冬には荒波砕け散る厳しい自然の光景を見せる。流氷の季節には、白い世界が一面に広がるところでもある。
枝幸の町に近い千畳岩。冬の凍結が見事だと聞いた
枝幸の町に近い千畳岩。冬の凍結が
見事だと聞いた


北見神威岬は枝幸と浜頓別との境にあり、断崖の尾根がオホーツク海に突き出すように延び、先端はそのまま海に落ち込んでいる。カムイとはアイヌ語で「神」を意味するように、自然への畏敬を持って付けられた名前といえる。神威岬の前に北見とつくのは、北海道西部積丹半島にある神威岬と区別するためだそうだ。
今年(2010)2月に国の「名勝」に指定された。岬の僅か手前には「神威岬公園」というのがあり、四阿とトイレだけの施設しかないが、ここは「北見神威岬」の全容を眺める場所として造られたもの。


●クッチャロ湖

国道238号線、通称宗谷国道を辿って北上、浜頓別へ入ると直ぐにクッチャロ湖大沼湖畔に着く。
クッチャロ湖は北西の小沼と南東の大沼の2つからなる湖で、北オホーツク道立自然公園に属し、「湖」と名の着く湖沼では礼文島の久種湖に続いて日本で北から2番目に位置する。大きさではクッチャロ湖の方がはるかに大きい。クッチャロとはアイヌ語で「沼の水の流れ口」を意味する。
砂州によって海と隔てられた海跡湖で、クッチャロ川の下流部を通じて海水が流れ込む大沼は塩分濃度も高いが、狭く浅い水路で隔てられている小沼は淡水に近い。湖の南大沼周辺は泥炭地でヨシやスゲ、ミズゴケなどの湿地植物が多いが、小沼から、さらに北にあるポン沼にかけてはアカエゾマツ林が広がる。
2つの湖はコハクチョウの中継地で、秋には2万羽余りがシベリアから渡ってきて日本各地へ渡る。すでに70羽ほどのコハクチョウが飛来していると、観察員の人の話だった。肉眼では見ることができなかったが、据え付けられた望遠鏡で遙か対岸に遊ぶ白鳥が見えた。

シベリアからの白鳥はこの湖で羽を休め本州へと移動する
シベリアからの白鳥はこの湖で
羽を休め本州へと移動する

湖の上、高台には無料の足湯がある
湖の上、高台には無料の足湯がある

クッチャロ湖の漁師
クッチャロ湖の漁師
水鳥観察館横には条約文が展示されている
水鳥観察館横には条約文が
展示されている


平成元年(1989)7月日本では釧路湿原・宮城県の伊豆沼に次いで3番目のラムサール条約に登録された。大沼の湖畔には「水鳥観察館」があり、ラムサール条約についての詳しい説明や、飛来するハクチョウたちやカモなど多くの生物の生態観察などが行える設備が整っている。
/入館料 無料、TEL 0163-42-2345

館内の天井を白鳥が飛ぶ
館内の天井を白鳥が飛ぶ
間近に鷲の剥製
間近に鷲の剥製