スペイン ラ・マンチャ地方を走る



ドン・キホーテのふるさと

マドリッドの南に広がる大平原、カスティーリャ・ラ・マンチャ地方の旅はドン・キホーテと切り離すことはできない。セルバンデスの小説はこの広大な平原のどことは決めかねるラ・マンチャの住人たちの物語だ。
黄昏の騎士キホーテをその従者サンチョ・パンサと、やせ馬ロシナンテとともにユーモラスに描いているが、そこには皮肉もたっぷりあって、読みこなすのは容易ではない。が、マンガや映画などで馴染んでいるせいもあって、この物語のあらすじはご存知の人も多いはず。
ラ・マンチャとはアラビア語で「乾いた大地」。その名の通り赤茶けた大地に雨の少ない土地のしか育たないぶどうやオリーブが栽培されている荒涼たる平原だ。
そこには白い家と風車が点在し、ドン・キホーテの世界を彷彿とさせる風景が広がっている。




マドリッド(Madrid)−トレド(Torledo)−コンスエグラ(Consuegra)−プエルト・ラピセ(Puerto Lapice)−アルカサール・デ・サン・ファン(Alcazar de S.Juan)−カンポ・デ・クリプターナ(Campo de Criptana)−エル・トボソ(El Toboso)−コルドバ(Cordoba
全行程 約500km 23



 



トレド(Torledo)へ

スペインの首都マドリッドからトレドまでは約70km。まだ高速道路には昇格していないが、すばらしい自動車専用道路だ。平坦な小麦畑の道の中に幾分起伏が続いたりする道を一気に走る。
クレタ島生まれの画家エル・グレコが生涯のほとんどを送ったころと同じ中世の町をそのまま今に残すトレドは、シーズンを通して観光客の姿でいっぱいだ。8世紀初頭から約400年にわたってイスラム教徒に支配された町は、イスラム文化の影響を大きく受けている。
カテドラルやアルカサルのある旧市街は狭い道が入り組み、両側には古い建物がぎっしり並び、その上駐車場もほとんどないので、徒歩で観光することをすすめたい。

コンスエグラ(Consuegra

トレドから約70km、県道400号線のぶどう畑の道をひたすら南下すると、道路沿いにやせ馬ロシナンテにまたがったドン・キホーテの標識が見えて来る。
このあたりから遠くの丘の上の風車と古城が望まれる。絵になる風景だ。褐色の丘の上に点々と並ぶ風車は全部で9基、古城は12世紀のもの。
やがて道は丘の上へと続き、古城の脇を抜け頂上に着く。振り返ると9基の風車と古城が絶妙なバランスで、見る者を中世の世界へ誘う。とくに褐色の大地と白い風車小屋を赤く染める夕暮れ時がドン・キホーテの世界を見るのが最高とされている。
帰路、狭い道を丘へと上ってくる大型観光バスとすれ違う。トレドから日帰りツアーでやってくる人たちだった。

プエルト・ラピセ(Puerto Lapice

マドリッドから約130km、コルドバへと延びる幹線自動車道沿いにドン・キホーテと書かれた看板があった。
標識に従って右折し、2kmほど入ると鉄で作られたドン・キホーテ像があり、わずかな土産物屋とレストランがあった。
道路上のドン・キホーテの看板はこのレストランのものだが、ここはただのレストランではない。作者セルバンテスが何度も泊まったという旅篭だ。ここでドン・キホーテが騎士の称号を受け取る儀式を作品に描いている。
建物の中ではドン・キホーテやサンチョスなどのグッズやラ・マンチャワインが売られている。

アルカサール・デ・サン・ファン(Alcazar de S.Juan

ラ・マンチャ地方の鉄道の要衝であるとともにラ・マンチャ地方の観光の基点ともいえる。
またアルカサールはこの地方では少ない、銀行やレストラン、バー、宿などが建ち並ぶ駅前通りがある。両替や食料購入などはここで済ませておきたい。
スペインに限らずヨーロッパの田舎では、レストランやスーパーマーケットなどは少ない。その上、長い昼休みや閉店時間が早いので、車の旅行は必ず一食分ぐらいの食料と水などの飲み物は常に用意しておきたい。日本のようにどこにでも自動販売機はないのだから。
この町の広場にもやはりドン・キホーテの像がある。白壁の家、羽根の壊れた風車があるだけで観光地というわけではないが、ラ・マンチャらしい風景に出会える素朴な町だ。

カンポ・デ・クリプターナ(Campo de Criptana

アルカサールの町から約7km、白い家並み、乾いた褐色の大地、白い雲が浮かぶ丘の上にの10基の風車が並ぶ。
巨人プリアレオとまちがって「逃げるな、臆病者め」と叫びながらドン・キホーテがやせ馬ロシナンテにまたがって、この風車に突進するという有名なシーンのモデルになったところがここ。
物語には32基もの風車があったという。この地方に粉引き風車ができたのは16世紀の半ば。風車の中の1基は当時の状態が復元され、その仕組みなどが見学できる。
ラ・マンチャ地方を旅するとなると交通の便は悪い。バスツアーなどの場合は問題ないが、個人旅行者は、自由に移動できるレンタカーがもちろんおすすめだ。しかし、どうしても列車の旅にせざるを得ない人の場合、訪ねやすい風車のある村はここだけだ。それだけ観光客の姿も多い。

エル・トボソ(El Toboso

アルカサールから約27km、カンポ・デ・クリプターナから約20kmやせた大地の田舎道を走る。
みどころは世界各地から寄贈されたドン・キホーテの本が集められた図書館とドン・キホーテが心をよせた娘ドゥルシネアが住んでいたという家。
もともと物語は実在人物を描いたというわけではないが、後にあたかも実在していたかのように作られていくことが多い。ドゥルシネアの家とされるところには、物語に描写されていたように彼女の寝室や調度品まである。あれこれ詮索はともかく、当時の屋敷やその生活が見られるだけでも面白い。

コルドバ(Cordoba)への道

マドリッドからからコルドバへ向かうE5号線の幹線道路から少し西へ寄り道しよう。
そこには荒涼たる大地に点在する白壁の家々、風車といったドン・キホーテの世界を南へと下りラ・マンチャの旧都アルマグロ(Almagroとへと入る。
スペイン全土を支配していたイスラム教徒を撤退に追い込んだ攻防戦の基地であったここアルマグロは、やがてカラトゥラーバ騎士団の本拠地となった。
当時の騎士や修道士の邸跡を残し、かつての野天劇場やカラトゥーバ修道院などみどころがいっぱいある。また、中世の家具調度品を備えた国営宿パラドールがある。

再びE5号線へ戻ってコルドバへの道を辿る。約200kmの道のりだが、褐色の山肌とオリーブ畑の峠を越えサンタ・エレナ(StElenaの町で一休みしよう。ここには鹿料理専門のレストランがある。眺めもよい。

峠を越えると、コルドバ(写真上右)までの道沿いには夏はヒマワリ畑がどこまでも続く。黄色に染まった大地と紺碧の空、光輝く太陽、スペインの魅力を惜しげもなく見せてくれる。