田沢湖周辺のみどころと温泉(2)




奥羽山脈の山中や麓には沢山の温泉が湧く。とくに秋田県側には、湯量豊富、健康への効能が人気の温泉が沢山ある。昔の湯治場だった温泉場の素朴さを残した一軒家の宿や、旅館街もあれば、ジャグジーやマッサージ・エステなどの施設を揃えた健康センターまである。
それぞれの趣を持った温泉地の中から、今回は、田沢湖から15kmほどの「乳頭温泉郷」、万病に効くともいわれる効能で有名な「玉川温泉」、そのさらに奥、八幡平(標高1,613m)の中腹にある「後生掛温泉」を訪ねた。

 

 

 

 

 

 




<コース>
角館-(国道46号線)-(県道217号線)-田沢湖一周-(県道194号線)-乳頭温泉郷六つの湯(黒湯、孫六、蟹場、大釜、妙之湯、鶴の湯)-(国道341号線)-玉川温泉-(県道23号線)-後生掛温泉-角館
全行程 往復 340km



<ルート付近のリンクポイントをクリックしてみてください> 

 

 


●田沢湖一周

角館から田沢湖町までの約20km、国道46号線沿いには奥羽山脈の山々から湧き出た水が湿原となって広がっている。冬には深い雪に閉ざされる一帯も「抱返り渓谷」をはじめ、名瀑、ミズバショウの群生地などがあり、秋は紅葉の名所、春には湿原植物の花々、初夏の新緑を求めて訪れる人々も多い。

 


田沢湖。1年を通じて凍結しない


JR田沢湖駅前はバス、タクシー発着所などのある広場だった。立派な建物は駅舎で、館内には観光案内所も設けられていた。
ここでは田沢湖周辺の観光案内から温泉ホテル、旅館、民宿などの案内及び予約をしてくれる。


●田沢湖畔

澄んだ瑠璃色の湖水が神秘的な美しさをみせる田沢湖。周囲約20kmの大きさがあり、日本一の水深(約423m)を誇る。ちなみに水深第2位は北海道の支笏湖であり、第3位は同じ秋田県と青森県にまたがる十和田湖だ。田沢湖の特徴は、湖面標高が約250m、最深部は海面下約175mということで、この深さのため真冬も凍結しない。
深い湖水に差し込む光は、それぞれの水深に応じて翡翠色、瑠璃色さらには濃い藍色などに変化する。多彩な湖水を眺めながらのドライブは最高だ。とくに桜、新緑、紅葉の季節にはぜひ訪れたい観光地の一つである。

 


夕暮れの田沢湖・辰子像
(画像をクリックすると拡大写真を表示します)


田沢湖の浮木神社

 

田沢湖畔には大きなホテルや旅館などはほとんどなく、自然以外の観光スポットといえば、辰子姫伝説にちなんだ「辰子像」だけといえよう。湖の西岸に建つ黄金に輝く乙女のブロンズ像は、永遠に若さと美貌を願ったため龍に変身し、湖神となったと伝えられる伝説の美少女。
ブロンズなのになぜピカピカの黄金色とはと、長年像の前でみやげ屋を営むという女性に尋ねると「酸性が強かった湖水の風を受けて錆びるから」だと教えてくれた。今は酸性も弱まり、放流したウグイがエサをねだって湖岸に群れる。


●乳頭温泉郷

県道194号線の行き止まり、烏帽子岳(標高1,478m 別名、乳頭山)の登山口にあたるブナなどの原生林に囲まれた温泉郷。田沢湖から約15km、県道の途切れたところから点在する6ヶ所の温泉の総称が乳頭温泉郷だ。
鄙びた湯治場、秘湯というイメージの強い昔ながらの温泉として有名。鄙びたところが有名というのは少し変な話だが、最近はこうした手を加えていない昔のままの温泉宿が人気だそうだ。

 


道路は整備されている


ちょっとですが山道です

 

途中、ブナの原生林の中に「休暇村田沢湖高原」という大規模な3階建てのホテルが建っていた。あたり一帯はブナの森を切り払われ、広い道路や無惨にも広大な裸地がさらされていた。休暇村といえば所管官庁が環境省、開発も節度を持ってもらいたいもの。そんな風景を見ながら、さらに上る。

 


乳頭温泉の渓谷
(画像をクリックすると拡大写真を表示します)


茶たての清水は人気だ


●黒湯温泉

県道の行き止まりの奥にある黒湯は、狭い道に入ると直ぐに駐車場に着く。これより登山道のような道を少し下ると茅葺き屋根の湯小屋と木造の宿に出会う。昔の湯治場そのものを残す素朴な建物や噴煙が舞い上がる混浴露天風呂は、秘湯乳頭温泉の代表的な風景として人気だ。
黒湯沢に面し、杉皮葺きの屋根にブナの幹をそのまま柱にした打たせ湯は、黒湯の名物の一つ。野趣あふれた湯治場の雰囲気を残すところである。自家発電に頼る宿の夜は、薄暗い明かりがともるだけ。シャンプーもなければ洗い場もなく、ただ湯量豊かで健康によい効能を含む湯に浸りリラックスする最高の場所なのだ。だが、最近の若い女性客から、洗髪もできないし上がり湯もないと苦情を訴えられることも少なくないという。

 

泉質は単純硫化水素泉 酸性硫黄泉で乳白色と透明湯。
/1泊2食付き 1万1,700円~ 自炊棟もある。TEL 0187-46-2214

 


黒湯温泉は湯量が豊富


黒湯温泉の露天風呂


●孫六温泉

乳頭温泉の一番奥、先達川の最上流部にある。最寄りの駐車場から徒歩5分ほど下り、橋を渡る。乳頭温泉の中で、もっとも交通の便が悪いようだ。黒湯と並んでお年寄りには介添いが必要と思われる。湯治場として栄えた昔のままで、現在も自炊施設もある。
露天風呂は3ヶ所、混浴と男女別もある。なかでも大きな一枚岩を四角にくり抜いた湯舟の「石湯」はここだけのもの。内湯は無色透明でなんの変哲もない湯だがラジウムが含まれているそうだ。他に打たせ湯がある。夜は自家発電の薄暗い裸電球の下での入浴。黒湯同様、情緒ある温泉場だ。


孫六温泉

 


紅葉が映り込む孫六温泉の露天風呂


大きな石をくり抜いた孫六温泉の石風呂

 

女将と昔話をしたら、「湯も宿も大きく変わっていないが、客のモラルが大きく低下したこと」を憂いていた。とくにテレビの温泉番組で、決まって女性がバスタオルを身体に巻いたまま入浴するシーンを、若い女性の多くが当然のように真似て入る。
「外国は知らないけど、日本の温泉は素っ裸だよ。しかも、ついこの間までは全部混浴だったんだよ。変な事件なんてなかったねぇ」という。本来、温泉は休養、養生を目的としたところ。「みんな暗黙のルールがあったね」としみじみと話してくれた。

 

泉質 単純硫黄泉 ラジウム鉱泉他。
/1泊2食付き 8,550円~、TEL 0187-46-2224


●蟹場温泉

県道の奥、行き止まりにある。名前の由来は、このあたりの沢に蟹が沢山生息していたことから付いた。かつては湯治場だったが、乳頭温泉郷の中でいち早く2階建ての本館と新館2棟を改装。内風呂は男女別で、透き通った湯の岩風呂と秋田杉を使った薄い白濁の湯の2つがある。
人気の露天風呂「唐子の湯」は宿から50m離れた広葉樹の原生林の中にある。無色透明の湯があふれる混浴(女性専用は19時半から20時半のみ)で、シーズン中の週末や連休には、芋の子を洗うほどの混雑ぶりだという。



蟹湯温泉の露天風呂
(画像をクリックすると拡大写真を表示します)

 

泉質 炭酸水素塩泉 単純硫化水素泉。
/1泊2食付き 9,075円~、TEL 0187-46-2021


●大釜温泉


宿は学校を移築再建した建物で、一見、山の分校風で懐かしさがある。内湯大浴場はヒバ造りで、男女別の露天風呂は原生林の中にある。
湯の色は茶がかった白濁色だが、光の加減でグリーンやグレーなどと微妙に変化する。豊富な湯量は酸性度が強く皮膚病などに効くとか。湯治場というより昔風を演出した現代の秘湯という感じである。


大釜温泉

 

泉質 酸性(含鉄Ⅱ) アルミニウム硫酸塩泉。
/1泊2食付き 9,600円~、TEL 0187-46-2438


●鶴の湯温泉

乳頭温泉郷最古の温泉宿。深い森に囲まれ小川のせせらぎを聞く鄙びた温泉場である。本陣と呼ばれる茅葺き屋根の旅館部と杉皮葺きの湯治棟がある。本陣と呼ばれる建物は江戸時代からの伝統を残すもので、門から長屋のように続く棟には各部屋それぞれ囲炉裏が掘られている。

 


乳頭温泉で最古の鶴の湯
(画像をクリックすると拡大写真を表示します)


鶴の湯自炊棟の台所

 


乳頭温泉郷の勘助清水


昔を偲ばせる囲炉裏のある部屋

 

この建物の奥には木造の湯小屋、さらに奥には湯量多い乳白色の露天風呂がある。鄙びた風情は秘湯と呼ぶにふさわしく、昔の湯治客の気分が味わえる。だが、こうした情緒ある温泉は、実際には雰囲気は鄙びでも、押し寄せる観光客の日帰り入浴で大混雑する。とくに新緑、夏季、紅葉シーズンは込み合う。
源泉は4つあり、それぞれ泉質と効能が違う。客室は古風な木造建ての建物、湯治場を思わせる古い建物の他、意外にもウォシュレットトイレ付きの高級感のある新本陣、東本陣もある。

 

泉質 4つの異なる泉質の主な湯は含硫黄 ナトリウム カルシウム塩化物 炭酸水素泉その他、含重曹、含硫黄など。
/1泊2食付き 8,550円~、TEL 0187-46-2139

 


鶴の湯の露天風呂


鶴の湯・内湯


●妙之湯温泉

最近の建物でコンセプトは女性に優しい和風モダンとか。洗い場もない、シャンプーもない乳頭温泉郷の中で不満の女性向きの宿。

 

泉質 マグネシウムカルシウム 硫酸塩泉など。
/1泊2食付き 1万2,855円~、TEL 0187-46-2740


●玉川温泉

天下にその名を知られる名湯。強酸性、ラジウムを豊富に含む泉質は万病に効く奇跡の温泉として評価が高い。湧出量は毎分9,000リットルと湯量も多い。大きな音とともに噴出する源泉と、もう一つこの温泉の特徴は天然の岩盤浴だ。
地熱で温められた天然の岩盤の上に横になり、ゆっくりと身体を温める。岩盤には「北投石」が混合している。(北投石とは、台湾の北投温泉で発見された鉱物で、ラジウムを含む。日本では玉川温泉だけが産地で、特別天然記念物に指定されている)


音を立てて湧き出す玉川温泉の
源泉。96度とあった

 


玉川温泉では湯花を採取していた
(画像をクリックすると拡大写真を表示します)


天然記念物・北投石の標示

 

広い岩盤地帯には硫化酸素を含む噴煙や蒸気がいたるところで噴き出しているので寝ころぶ場所には注意が必要。監視員がいて危険地帯への侵入は禁止される。
平らにならした岩盤上に、テントやビニールの囲いがされたところもある。中にはタオルやゴザなどを敷いて、大勢の人が寝ころんでいた。微量の放射線を含む岩盤、豊富なマイナスイオンによって心も癒される。

 

泉質 含二酸化炭素 鉄(Ⅱ) アルミニウム塩化物泉。
/天然の岩盤浴は無料。宿泊施設及び浴場 1泊 2食付き 8,100円~ 自炊部もある。TEL 0187-58-3000

 


敷布をかぶり岩盤浴をする人


岩盤の上にテント。中の人はみな汗だくでした

 


岩盤浴にビーチパラソルは似合いません


噴気口で栗や卵を蒸していた


●後生掛温泉

八幡平の中腹にある温泉郷の一つ。古くから湯治の湯として親しまれ「馬で来て下駄で帰る」といわれるほど療養効果があるという。地熱で床が温められているオンドルの宿は、昔の湯治の雰囲気を残す。
宿の人気風呂は、木の箱に首だけ出して蒸気で蒸す「箱蒸し風呂」だ。また温湿布のような「泥風呂」など湯や蒸気を利用した独特のもの。ただし、人気は人を呼び、人々は大型バスで次々とやってくる。情緒ある温泉場は大混雑だ。どの温泉も日帰り入浴客で賑わう時間は避けたい。自分の好みの温泉宿に泊まって、ゆっくり湯に浸たり、いっぱいの酒に地物の味をつまむ。これが温泉の醍醐味だ。自炊部もある。

 

泉質 単純硫黄泉。
/1泊2食付き9,600円~ 、TEL 0186-31-2221

 


後生掛温泉


大沼