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ノルウェーの長い西海岸線を往来する定期船「フッティルーテン(Hurtigruten)」は、ベルゲン(Bergen)を出発してから7日目、往路の終着港、ヨーロッパ最北端、ノルドキャップに近いホニングスボーグに着く。 ここで観光客の大半は下船し、バスでノルドキャップへ行き、戻って来て空路でそれぞれの目的地へと向かう。乗客の減った船はさらに進み、終着港のロシア国境に近いキルケネス(Kirkenes)に入港。同じコースを辿ってベルゲンへと戻る。最果ての街、キルケネスは思いのほか発達した街で、港近くこそ閑散としているが、10分も歩くと人影は少ないけれど、綺麗な街に出る。 ロシア国境まで行ってみようかとも思ったが、タクシーを雇わないといけないし、地元の人は「普通の国境だから行っても意味はないよ」と言うので止めにして、街外れの公園へ行ってみたら第二次大戦の時に掘ったのだろう、大きな防空壕があり、扉が開いていた。電気もついていてトンネルが延びている。構わず奥へと行ったら観光客が20人ほど、ガイドの説明を受けていた。防空壕のドアは、観光客がガイドに連れられて入るために開けられたのだった。 天井も高いし、幅も広い。防空壕と言っても生活できる広さがある。その中のさらに広い空間で、観光客は立ち止まり、ガイドの説明を聞いていた。立ち聞きしていたらガイドはニヤリとして文句も言わなかった。最果ての地まで、戦の痕跡が色濃く残っているのに驚いた。
大ヒットした『アナと雪の女王』に登場するファンタジーなシーンの多くは、ノルウェーの大自然や街並みをモチーフにしたものだという。とくに海から山が屹立する独特の風景は、ロフォーテン諸島の地形を参考にしたと聞いた。 ドライブルートハシュタ(Harstad)-スヴァルバ(Svolvær)-レイネ(Reine)-オー(Å)-ハシュタ(Harstad) 全行程 約700km ハシュタ(Harstad)北緯69度近くの北極圏に位置する。ヴァイキング時代から重要な基地として栄えた街。19世紀にはイワシ漁が盛んだったという。港には本島や島々からの定期船やフッティルーテンなどの大型船も寄港する。人口約2万4,000人という北極圏では三番目の都市で、レストランやカフェもあり、ショッピングモールやスーパーマーケットも充実している。
ロフォーテン諸島(Lofoten)国道E10号線沿いの漁村 13~16世紀、ベルゲンはハンザ商人の庇護のもと繁栄したが、その貿易を支えたのは、このロフォーテン諸島のタラ漁であった。この地方の干しダラはハンザ商人によりベルゲンを積み出し港としてヨーロッパ各地に輸出された。現在もロフォーテン諸島の主要産業はタラ漁なのだ。ロフォーテン諸島の魅力は自然ばかりではなく、タラ漁とともに生きる人々の強い生き様を知ることでもある。 ハシュタ港より国道83号線を空港方面へ約30km、ここで空港への道と分かれて国道E10号線を先端まで辿る。約50km海岸線を走り、さらに約20km先のトンネルを抜けると、コンクリートの立派な橋が有り、橋の手前に「これよりロフォーテン」の看板があった。“まるで絵ハガキの中に入って行くよう”と形容される「海のアルプス」のはじまり地点である。橋の上から望むフィヨルドの風景は実は海峡で、フッティルーテンなどの大型船舶をはじめ、さまざまな船が行き交う航路でもあった。しかし、両岸は険しい山々に囲まれ、流れの中には無数の小島が浮かぶ。10月も後半に入ったいま、まだ昼だというのに、傾いた太陽の光はすでに夕日のように白くあたりを照らしていた。
道は深く切り込んだ入り江に沿ってくねくねと曲がりながら続く。道すがら小さなパーキング場を見つけ、一休み。エンジンを切ると、そこは音のない世界である。 スヴァルバ(Svolvær)ロフォーテン諸島はもともと良質な干しダラの積み出し港として知られていた。その中でスヴァルバは最大の港町であり、世界最大のタラ漁場を持つ。1~4月の中旬には多くのタラ漁船で賑わう。また交通の要衝として発展。町の中心は大型船も発着する港周辺で、レストランや宿泊施設がある。その町の北に険しくそそり立つ山は、ロッククライミングの名所で、この山を目的に訪れる人も少なくない。
この地方特有の海辺に建つ宿泊施設は「ロルブー」と呼ばれる。潮の満ち引きに対応できる高床式になっているものもある。かつてはタラを追ってタラ漁に集まってくる漁師たちが漁の合間に滞在した小屋。現在はキッチン、シャワー、トイレ付きの観光客用に改装されているものが多い。ほとんどは入り江の海に面して建つ。実際に今でも漁師小屋として使われているのは、茶色に塗られた木造の三角屋根の小さなものだが、ホテルの場合は一棟が大きくコテージ風に沢山並び、外観は白く塗られたお洒落なものもあった。
レイネ(Reine)へ切り立った岩山の麓を走る スヴァルバからロフォーテン諸島の最西モスケネス(Moskenesøya)島への約200kmのドライブは、今回のコースでのハイライトだ。諸島を繋ぐ大小の橋、深い入り江を大きく回り込むように続く道。道幅が狭く上下する坂やカーブが続く。決して快適な道路とは言いがたいが、カーブを曲がるごと、坂道を上り下りする度に変わる山の形や海の色、なめらかな水面、また波立つ海に揺れる小舟や、山裾に点在するロルブー(漁師小屋)など、まるでおとぎの国の中にいるようだ。スマホをかざして映す風景は、誰が撮っても確かに絵ハガキである。
レイネの町はこれより約3km、崖と入り江の奥にあった。国道から左折して町へ入る途中から、最も美しいといわれるレイネの町の全容が見渡せる。海から迫り上がったような山々、その針峰群に囲まれたフィヨルドの、静かで透き通るような蒼い水に映る褐色のロルブーの風景は、まさにノルウェーの自慢である。
本土ボードーへのフェリー
オー(Å)ロフォーテン諸島の最西端、レイネから約5km。崖にへばりつくような道と岩山をくりぬいたトンネルを抜けると国道E10号線の終点だ。そこにはバスのターミナルと大きな駐車場がある。今は10月末、訪れる人も少ないが、春から夏にかけては、大勢の人々が訪れるという。先端へは徒歩で約5分。巨大な岩がそのまま海へばっさりと落ちたさまは、まさに最果てを感じさせる。芝などで整備された先端の公園、その真下には垂直の岸壁に砕ける波の音が聞こえてくる。
オーの町へはターミナルから徒歩で約5分。漁師の家々は漁が始まる冬までは、留守のことが多いと聞いた。また町には「ノルウェー漁師博物館」と「ノルウェー干しダラ博物館」があるが、いずれも季節外れで閉鎖されていた。
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